どうする?物理教育! 第2弾

 「抗力も仕事をする」と主張し、四方八方からエネルギー保存則に反するではないかと 猛反発を受けたにも関わらず、性懲りもなく今度は「抗力だけでなく摩擦も仕事をする」と言えば、さてはトンデモ説の在庫整理かと、もはや相手にされず一笑に付されよう。だが、しかし、・・・。

 文字通り運動に抗う力、抗力や、力学的エネルギーを散逸させる摩擦はどちらも、一見、仕事をするのを邪魔しているだけかのように思えるが、日常の力学にとっては抗力や摩擦がする仕事は極めて重要である(「あたりまえ体操」が当たり前になる日)。もちろん、抗力や摩擦が仕事をしても、エネルギー保存則に反することはない。 

潮汐摩擦と月に働く力

 摩擦が仕事をする例として、潮汐摩擦を考えて頂きたい。地球の海底で起きている潮汐摩擦が地球から38万km離れた月の運動に万有引力を介して仕事をしている。

 地球の自転は摩擦によって海水を引きずり、引きずられた海水BとCは、それぞれ、月に引力FBFCを及ぼす。地球の固体部分A が月に及ぼす引力FAは中心方向の成分だけだが、FBは月の進行方向の成分をもち、FCは進行方向と逆向きの成分を持つ。海水Bが海水Cより月に近いので、月に働く力の合力は僅かに進行方向の成分を持ち、それが月の運動に仕事をして月の公転の力学的エネルギーを増やし、月は僅かずつ地球から遠ざかっている。

 月が潮汐摩擦によって遠ざかっていることは、C.ダーウィンの息子、G.ダーウィンによって既に天体の潮汐進化説として予言されていたが、NASAが月までの距離を長期間測定し続けた結果、実際に月は1年間に約4cmずつ程遠ざかっていることが分かっている(秋の夜長の月物語)。潮汐摩擦がなければ、万有引力は保存力であり、月の公転運動に仕事をせず、月の軌道は一定だが、潮汐摩擦のため、地球‐月系全体の力学的エネルギーは減少しているにも関わらず、月の公転運動はエネルギーを増している。潮汐摩擦は地球の自転運動に負の仕事をするとともに月の公転運動に正の仕事をしていることになる。

 「摩擦は力学的エネルギーを消費するだけで、いかなる場合も仕事をしない」とか、「抗力はその作用点が動かないので、エネルギーを生み出すことができないので仕事をしない」と考えがちだが、いずれも間違った固定観念である。摩擦や抗力が仕事をしなければ、系のなかの一つの運動から他の運動への力学的エネエネルギーの伝達を説明できない。

 他の惑星や恒星からの力が無視できれば、地球と月の系を孤立系と考えることができ、系の角運動量は保存するので、角運動量は潮汐摩擦によって地球自転が失った分だけ、月の公転の角運動量が増す。つまり、角運動量が、地球の自転から月の公転へ移動している。しかし移動するのは角運動量だけではない。潮汐摩擦によって地球の自転が失った力学的エネルギーはすべて摩擦熱になったのではなく、一部は月の公転のエネルギーに移っている。

 運動法則は、力の作用点が動くか動かないか、また力の作用点が滑るか滑らないかで、力を区別していない。物理現象を数式だけではなく、言葉で説明するのは大切なことであるが、抗力は作用点が動かないので仕事をしないとか、滑るから仕事をしないなどの制約は運動法則には存在しない。

 古典力学の基本原理は三つの運動法則だけである。荘子に「混沌七竅に死す」とあるが、先入観に囚われ、古典力学に、運動法則以外のあれこれ余計なことを付け加えるなら、それは古典力学にとって手枷足枷になるだけであり、力学は質点のみにしか適用できなくなり、あたりまえ体操も潮汐進化も当たり前でなくなろう。それでいいのか物理教育、しっかりせんかい!物理教育。

参考:どうする物理教育!

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