抗力の仕事を巡る集団ヒステリー

 道路や壁から受ける力、抗力は仕事をするかしないかを巡って物理学会および物理教育学会との論争も8年目に突入した。相対論や量子論ならまだしも、ニュートン以来300年以上が経過し、すでに完成した古典力学において、二つの主張が真っ向から対立し、果てしなく論争が続くのは、少なくともどちらか一方がニュートン力学に反しているからであろう。

 抗力も仕事をするこができるという筆者の主張に対し、両学会は、抗力は作用点が動かないので、いかなる場合も仕事をすることはできないと主張する。抗力はその作用点が動かないことは確かだが、ニュートン力学は、作用点が動くか否かで力を区別していない。

 抗力が仕事をすると、エネルギー保存則に反するとの学会の主張だが、「抗力は仕事をしない」という制限を加えなくても運動方程式からエネルギー保存則を数学的に正しく導くことができる。それでも学会は、40年前にアメリカで発表され、Pseudoworkなる得体のしれない擬の仕事の存在を主張する論文[Am.J.Phys.51,597(1983)](以後PS論文と呼ぶことにする)を唯一の盾に抗力は仕事をしないと繰り返すのみである。しかし、PS論文がニュートン力学に反していることは、円柱が斜面を転がる運動においてエネルギー保存則が成り立つことを導いてみれば明らかである。円柱は斜面から抗力を受けるが、ニュートン力学を適用し、運動方程式からエネルギー保存則を導く過程に擬の仕事などは現れない。→檻に繋がれた高校力学

 抗力は仕事をするかしないかを判定するのは、ニュートン力学である。宗教裁判の時代にはニュートン力学は存在していなかった。しかし、今、PS論文を理由に抗力のする仕事を否定するのは、ニュートン力学を無視し、天動説を理由に地動説を否定するに等しい。

 この問題に関する限り、現在、物理教育に「pseudowork信仰」が蔓延し、集団ヒステリー状態に陥り、正常な判断能力が麻痺しているようである。かなり、重症のように見えるが、それは物理教育を襲った質の悪い流行り病による、一時的な症状だと思う。学術的集団なら、自らの自浄作用によって、本来の姿をすぐにも取り戻すことができる筈である。物理教育学会が狂信的な宗教団体でないことを信じ、お見舞い申し上げるとともに、一日も早く回復し立ち直って日本の物理教育を正しくリードして頂きたい。

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