’幸運の女神’に見捨てられる確率

 物理の計算にも頻繁に使用されるる二つの定数、\pieだが、前者が円周率という明確な意味を持つのに対し、後者は何と呼べばよいだろうか。自然対数の底と呼ばれているが、それなら自然対数とは何かという疑問に対し、答がeを底とする対数では堂々巡りとなる。eの意味が明確になる命名はないだろうか。高校の数学の教科書には自然対数の底eは次のように定義されている。

    e=\lim _{ n\rightarrow \infty }{ { \left( 1+\frac { 1 }{ n } \right) }^{ n } }   (1)

 (1)式で定義される自然対数の底、あるいはネイピア数と呼ばれる無次元の定数eは、エクセルを用いて、簡単に計算できて、e=2.71828182846・・・となる。小数点以下が無限に続く無理数だが、eの意味を確率から考えてみよう。

 サイコロを振って1の目がでれば当たり、それ以外の目の場合はハズレとしよう。当たりの確率は1/6だからサイコロを6回振れば、1回ぐらいは当たりが出そうだが、そうはいかない。1回振ったとき、ハズレがでる確率は5/6であるから、6回ともハズレる確率は、5/6の6乗となり、その値は0.335・・・となる。サイコロを6回振っても約33パーセントの確率で、幸運の女神に見捨てられて1回も当たらないことになる。

 一般にnを正の整数として、当たる確率が1/nのくじを引いたとき、そのくじが当たらない確率は1-1/nであるから、そのくじをn回引いて一度も当たらない確率は1-1/nのn乗になる。つまり、

   { \left( 1-\frac { 1 }{ n } \right) }^{ n }={ \left( \frac { n }{ n-1 } \right) }^{ -n }={ \left( 1+\frac { 1 }{ n-1 } \right) }^{ -n }   (2)

となる。(2)式の値は、n→∞の極限で1/eに収束するので、nがある程度大きければ、当たる確率が1/nのくじをn本買った場合、一本も当たらない確率は1/e=0.37に近くなる。幸運の女神は、たまに、ほほ笑むこともあるが、むしろ、37パーセントのかなり高い確率で我々を冷たく見捨てるので、くれぐれもご注意を。自然対数の底とは、幸運の女神から見捨てられる確率の逆数と命名することはできないだろうか。

 さて、自然対数の底eは複利計算の極限として、その数式にも現れ(→自然対数の底e)、また、複素解析にとっては、不可欠な定数であり、数学のみならず、物理や工学にとっても極めて重要な定数である。

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