第一法則(慣性の法則)はなぜ必要か

 ニュートン力学は、慣性の法則、運動の法則、そして作用反作用の法則の、三つの法則がその基礎となっている。
 慣性の法則と呼ばれる第一法則は、物体に力が働かなければ、物体は静止したままか、等速度運動を続けるというものでガリレイによって提唱された。
 そして、運動の法則と呼ばれる第二法則はニュートンによって確立され、物体に力が働けば、その物体には加速度が生じる。物体の質量をm、働く力をF、加速度をaとすると、F=maなる関係があるというものである。
 さらに、作用反作用の法則と呼ばれる第三法則は、力は物体と物体の間に作用し、物体Aが物体Bから力を受ければ、その反作用として、物体Bは物体Aから、逆向きの同じ強さの力を受けるというもので、これもニュートンによって確立された。
 筆者は物理を習いたての頃、三つの法則の中で第二法則だけが重要だと考えていた。第二法則において、力がゼロの場合が第一法則に相当するので、第一法則は取り立てて述べるほどのものではないと考えていたのである。
 しかし、それは大きな誤りであった。加速度は座標系の選び方によって異なるので、まず座標系を決めなければならない。加速度と力の関係を記述した第二法則が成り立つのは座標系を慣性系に選んだ場合のみであり、その慣性系を第一法則で述べているのである。
 それでは、座標系として、敢えて非慣性系を選べば、どうなるだろうか。例えば回転座標系を選んでみよう。その場合も、「力」のなかに、実在の力だけでなく、遠心力やコリオリの力などの見かけの力も含めれば、第二法則はそのまま成り立つ。しかし、その場合、回転座標系は慣性系に対して回転運動をしているのであり、やはり、慣性系の定義が必要となる。さらに、「力」に見かけの力を含めると、第三法則は成り立たなくなり、複雑化するだけである。
 未知数の値を決定するには、未知数と同じ数だけの独立な方程式が必要であるように、加速度、力、質量を定義するには三つの独立な法則が必要である。第一法則で慣性系を定義しているのは、「加速度」を定義するのに必要だからである。次に、第三法則によって「力」を定義し、「力」と「加速度」の関係を示した第二法則によって「質量」を定義していると考えるべきであろう。
 ニュートン力学の三つの法則は、いずれも必要不可欠な、互いに独立な法則であり、そこに修正する点があるとすれば、三つの法則を並べる順番ぐらいであろう。

コメント

  1. […] 参考: ・http://xn--vuqu59an32ap9b.jp/?p=2320 ・http://eman-physics.net/dynamics/newton.html […]

  2. 原 宣一 より:

    ニュートンの運動の3法則だけに限れば座標系を持ち出す必要はないと思います。第一法則は簡単にするならば「物体は静止したままか」を外しても良いかと思われます。第二法則は物体の速度を変えるには力を加える必要があると述べています。すると力とは何かの定義が必要です。上手く言えないのですが、次のような定義で如何でしょうか。航空工学で空気力は動圧×面積と習います。

    力の定義:力Fとは圧力に面積を乗じた量である。(1Nの力とは1平方メートルの面積が1パスカルの圧力が作用したとき。)
    圧力の定義:圧力とは分子・原子の集団が電磁相互作用の集積として他の物体表面に及ぼす作用。
    圧力の基準:1モルの理想気体が標準状態で単位体積に占めるときに示す圧力を(約3000)パスカルとする。

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