小野道風とカエル

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 藤原佐理、藤原行成とともに三蹟と並び称される小野道風にも、辛い修業にくじけそうになることがあったのだろうか。道路脇の雨カエルが何度も失敗を繰り返しながら、ついに柳の枝に跳びつく光景を見た彼は、それ以来、勉学に励んだと伝えられている。

 雨カエルの体長を2cm、そのとき跳びついた枝の高さが20cmだったとしよう。若き日の道風に、何事も努力すれば、いつか望みは叶えられることを教えてくれた教訓カエルだが、その体長が100倍の2mになれば、その巨大カエルは20mの高さの柳の枝に跳びつくことは可能だろうか。 

 巨大化したカエルが、20mの高さまで跳び上がることができたとしても、その高さから落ちれば、カエルは確実に墜死するだろう。落下したときと跳び上がるときの衝撃は同じであるから、跳び上がることが不可能であることは明白だが、これを説明するにはどう考えればよいだろうか。

 カエルが地面を蹴ってジャンプする際に、カエルの足は、目標の高さの位置エネルギーに相当する仕事をしなければならない。仕事は力と距離の積である。このときの力はカエルの足が地面を蹴る力であるから、足の断面積、つまり、長さの2乗に比例する。また、距離のほうはジャンプするために、足を曲げて伸ばすときの加速距離であるから、足の長さに比例する。結局、蛙がジャンプするときの足がする仕事は長さのスケールの3乗に比例することになる。つまり、カエルがなしうる仕事は、カエルの単位質量当たりでは、カエルの大きさに関係なく一定である。ただし、蛙の足が仕事をするには、カエルの足が地面を蹴る力はカエルの体重よりも大きくなければならない。 

一方、最高点の位置エネルギーは、カエルの質量と重力の加速度と最高点までの高さの積で表される。カエルの質量がすでに長さの3乗に比例して大きくなるから、重力の加速度が変わらなければ、跳び上がれる高さはカエルが巨大化しても変わらないことになる。カエルのスケールを大きくしていくと、最初は大きくなってもカエルが跳び上がる高さは一定であるが、さらに大きくなり、カエルの体重がその足が支えることのできる力に等しくなると、カエルは背伸びするのがやっととなり、それ以上大きくなれば、カエルは自分の体重さえ支えることができなくなるだろう。
 

 走り高跳びの選手は一般に背が高い。これは背が高い選手の方がもともと体の重心の位置が高いから有利なのである。ちなみに走り高跳びの記録は背面跳びが取り入れられてから飛躍的に伸びた。越えることのできるバーの高さは、最初の重心の高さとジャンプした高さの和ということになるが、背面跳びでは、体の重心は必ずしもバーを越えてはいない。体の重心はバーを越えずに、バーの下をくぐりぬけていても、背中を反らせることによって、選手の体はバーを超えることができるのである。

コメント

  1. 小原達朗 より:

    読ませていただきました。物理学と文学の融合せすね。後藤先生の違う一面を発見しました。楽しみにしています。

    • nobuyuki より:

      読んでいただき有難うございます。これから、まだまだ増やしていきますので、今後ともよろしくお願いします。

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