道は在らざるところなし―荘子 

 有機化学者の友人に勧められ古代中国の哲学書「荘子」の解説書を読みました。中公新書から出版されている福永光司著「荘子・古代中国の実存主義」です。本の第四章『真実在の世界―「道」の哲学』のなかで、東郭子の質問に対する荘子の答えは、私にとって、まさに「我が意を得たり」でありました。

 東郭子は荘子に「道はどこにあるか」と尋ねます。ここでの「道」とは道路ではなく、真理のことです。そのときの荘子の答が標題の「道は在らざるところなし」です。

 荘子の答に対し、東郭子はそんな漠然とした答ではなく、道は何処にあるか、どうか、具体的に教えて頂きたいと頼みます。

 荘子は答えます。「螻蟻(ろうぎ)の中にある」と。螻蟻とはケラやアリのことですが、その答に納得できない東郭子に、荘子は続けて答えます。「イヌビエの中にある」と。つまり雑草のなかにあるというのです。さらには「瓦礫の中にある」と。そして最後には「糞小便の中にある」と。

 噂を聞いて遠くから尋ねて来たのに、まともな答を返さない荘子に失望した東郭子は黙り込んでしまいます。

 現実世界を超越した深遠で幽玄な世界にこそ真理があると思っていた東郭子には、神の世界や難しい経典のなかでなく、現実社会の日常の至る所に真理が存在するという荘子の思想が理解できなかったようです。

 「万物は自生自化する」これも荘子の言葉です。超自然的な存在を否定し、あらゆる物は自ずから生まれ、自ずから変化するという荘子の考えはダーウィンの進化論にも通じるかと思います。

 自生自化するのは生き物だけではありません。チャールズ・ダーウィンの息子のジョージ・ダーウィンは天体の運動も潮汐摩擦によって進化するという潮汐進化説を唱えています。それについては、このホームページの拙稿を参照していただければと思います。

 哲学とはほど遠い門外漢にも「荘子」を分かりやすく解説して頂いた著者の福永光司氏に感謝するとともに、戦乱の時代、混乱の続く弱小国の民として生まれながら、既成概念に囚われない自由な発想のもとに、2300年もの昔に「真理は糞小便の中にある」と言い放った古代中国の思想家に限りない親近感を覚えずにはいられません。

 参考:ポッチャン便所からの熱力学

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