劇場型論戦「長崎の乱」

 混沌として先行き不透明な時代を象徴するかのように、異端の説?を唱える集団が日本物理学会を揺るがしているという。カンダタが蜘蛛の糸を登るとき、その重心運動に仕事をしたのはカンダタの筋力ではなく、蜘蛛の糸の張力だと主張する、いわゆる「張力派」の台頭である。
 「筋力説は、どう考えてもおかしかばい」「間違っとる説を理由に正統派の張力説を異端扱いするとは、もう我慢ならんばい!」 ついには、「一揆じゃ!一揆じゃ!」と口々に叫び、気勢を上げる集団。
 「島原の乱」勃発の地、長崎から張力説を掲げて蜂起した一団も、やがて自説の誤りに気づき、自然消滅すると思われたが、これもトランプ現象か、一揆は衰えるどころか、隠れ張力派を次々と味方にひき入れ、あれよあれよというまに、一大勢力に膨れ上がり、筵旗(むしろばた)を押し立てて、筋力派の牙城に迫る。
 一方、田舎者の烏合の衆など、飛んで火に入る夏の虫、一網打尽にしてみせんと、手ぐすね引いて待ち受けるは、いずれもその名を聞いただけで足がすくむ筋力派の名だたるつわもの。不用意に仕掛けようものなら、舌鋒鋭く切り返してくる百戦錬磨の論客揃い。しかし、一同、怯むでない。難攻不落の城にも致命的な弱点がある。そこを攻め立てればこの城必ず落とせる。
 反乱軍不利の予想も、世の中、何が起こるか分からない。下馬評も今やほぼ互角。風雲急を告げ、いよいよ一触即発の予断を許さぬ事態となったが、相対論や量子論ならまだしも物理学の中で一番歴史が長く完成度の高い初等力学で、しかも「力と仕事」という基本的な点において、これほど真っ向から意見が対立するのもめずらしい。
 一年間に亘って続いている騒動、どう決着がつくのか、アメリカの新政権の今後の動向とともに、どっちもこりゃ目が離せんばい!
仕事とりかえばや物語

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