トレミーの定理と複素解析

図1

図1のように円に内接する四辺形ABCDの四つの辺の長さ、AB、BC、CD、DAと二つの対角線の長さ、AC、BDの間に成り立つ、トレミーの定理と呼ばれる等式:

AB×CD+AD×BC =AC×BD     (1)
がある。前回は、これを初等幾何学で証明したが、その方法は計算が少々面倒であった。

ところが(1)式をよくよく眺めていると、面白いことに気づく。
(1)式のなかで辺や対角線の長さ、例えば、対角線ACを二つの数AとCの引き算に置き換えると、つまり、AC→A-C、他も同様にBD→B-D、AB→A-B 等と置き換えると、(1)式は、
(A-B)×(C-D)+(A-D)×(B-C)=(A-C)×(B-D)    (2)
となる。(2)の両辺を展開して比較すると、(2)式は恒等式であることがわかる。もちろん、それだけでは、トレミーの定理を証明したことにはならない。しかし、このことからトレミーの定理の証明には複素解析の手法が有効のように思える。
複素数は、その絶対値と偏角が与えられれば、一意的に決まる。つまり、任意の複素数Pはその絶対値|P|と偏角θを用いて次のように表わすことができる。

P=|P|e
図1の円を複素平面上の原点を中心とする単位円とすると、円周上の複素数、A、B、C、Dの絶対値は1であるから、A、B、C、Dは、それぞれの偏角、θA、 θB、 θC、 θDが与えられれば決まる。(2)式の左辺の最初の項、複素数(A-B)×(C-D)について考えよう。
A-B
図2を用いて、まず、複素数A-Bがどう表わされるかを知りたいが、その前に複素数A+Bを考えると、その絶対値は|A+B|であり、その偏角は、図2より、Aの偏角θAとBの偏角θBとの平均だから(θAB)/2となる。
次に複素数A-Bは、複素平面上で、複素数A+Bと直交しているので、複素数A-Bの絶対値は、|A-B|であるが、その偏角はA+Bの偏角よりπ/2だけ小さいので、(θAB-π)/2となる。複素数C-Dについても同様である。
さらに二つの複素数の積(A-B)×(C-D)の絶対値は|A-B|×|C-D|であり、偏角のほうは、A-Bの偏角とC-Dの偏角との和であるから、(θABCD)/2-πとなる。同様に複素数(A-D)×(B-C)および右辺の(A-C)×(B-D)もその偏角は(A-B)×(C-D)の偏角と等しい。
よつて、四つの複素数、A,B,C,Dが単位円の円周上にあれば、式(2)のなかの三つの複素数、(A-B)×(C-D)、(A-D)×(B-C)および、(A-C)×(B-D)の偏角はどれも等しいので、絶対値だけの間の関係式
|A-B|×|C-D|+|A-D|×|B-C|=|A-C|×|B-D|
が得られる。これはトレミーの定理、(1)式に他ならない。(証明終わり)

コメント

タイトルとURLをコピーしました