ごんべぇの種蒔き

ホームページ開設にあたって

 なにやら両手にかかげ、絶叫しながら、大通りを駆け抜けた裸の男がいた。りんごの落ちるのを見て、突如、思索に没頭した青年がいた。

 今、若者の知的好奇心は、あり余る物質的豊かさのなかに埋没してしまったのだろうか。それとも、マークシート方式や穴埋め式の大学入試問題が、本来、「もののことわり」を追求するはずの物理を、公式主義の「暗記科目」にしてしまったのだろうか。もし、そうだとすれば、その責任の一端は我々大学教員にもあろう。

 物理学を応用した製品が日常に氾濫しながら、若い世代が身近に感動するものを見失った今こそ、受験勉強の物理とは違った、物理学本来の思考する面白さと、先人が苦難の末、辿りついた発見の感動と喜びを伝えるべきではないだろうか。

 本ホームページは、著者の長崎大学での教養部時代から環境科学部時代、そして定年退職後に関わっている、長崎大学未来の科学者発掘プロジェクトまでの、教育活動のなかで、少しずつ書き留めてきたものであるが、その作成にあたっては、「昼休み茶飲み仲間」、「九州物理教育研究グループ」、「時間の科学研究会」、「サイエンスワールド関係者」など、周囲の人々との議論が大変参考になった。

 功成り名を遂げた大家ならまだしも、浅学菲才を顧みず、物理学に文学を取り入れるという分不相応の試みにもかかわらず、大学内外の多くの方から、いろんな折に、暖かい言葉をかけていただき、また、有益な助言や励ましのお便りもいただいた。それが優柔不断で無精者の筆者にはなによりの力となった。これらの方々に感謝の意を表したい。そして、筆者のつたない講義を熱心に聴き、ときには意外な質問をしてくれた学生諸君に感謝したい。

 さらに、本ホームペ-ジは先人が残してくれたすばらしい文化遺産なしでは存在しなかった。物理学も文化の一つである。それを受け継ぎ後世に伝えることが、命懸けで文化を創り残してくれた多くの有名無名の彼ら先人達の労に報いることであり、われわれ教育に携わる者の責務であろう。

 アルキメデスになれず、ニュートンになれず、才なく夢破れた名無しのごんべえが蒔いた畑の麦も、霜の下から土を押し上げ芽を出して、やがて麦踏みすれば、春の陽射しを受けて生い茂り、雲雀のさえずる空のもと、辺り一面、麦の穂が風に波打つこともあろう。そんなほのかな希望を本ホームページに託したい。

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