フーコーの振り子も、地球が自転していなければ、振り子の振動面は一定だが、地球の自転のため、振り子の振動面が回転する。北極や南極では振り子の振動面は一日に一回、つまり360度回転し、赤道上では回転しない。振動面の回転は緯度で異なり、回転の向きは、南北で逆になる。北半球では上から見て右回り、南半球では左まわりである。
すでに日露戦争のころから、標的を狙って撃った大砲の砲弾が右方向にずれることが知られていた。その理由は、砲弾が標的に届く間に、地球が自転しているため、標的の位置が、左に回転しているからであるが、フーコーの振り子の振動面の回転も砲弾の軌道のずれも、座標変換で説明することができる。物体の運動を回転座標系から見れば、慣性系から見たときに比べ、二つの見かけの力、つまり、遠心力とコリオリの力が働いているように見える。コリオリの力は物体の進行方向に対して北半球では右向きに、南半球では左向きに働く。
コリオリの力は海流にも働く。図1は世界の海流(気象庁ホームページから引用)である。コリオリ―の力のため、海流は北半球では右回り、南半球では左まわりになる。しかし、台風は、海流の逆で北半球では左まわり、南半球では右まわりになる。台風では、低気圧の中心に向かって吹き込もうとする空気の流れに、コリオリの力が、北半球では右向きに働くため、空気の流れが右にずれる。それでも中心に吹き込もうとするが、やはり、コリオリの力のために右にずれる。それを繰り返しながら中心に吹き込もうとするため、北半球の台風は左まわり、南半球の台風は右回りになる。ただし、台風の場合、地球の自転によって台風の中心が左にずれていくのでそれを追いかけるように空気の流れが生じると考えた方が分かり易い。海流も台風も、コリオリの力は、進行方向に対し、北半球では右向き、南半球では左向きに働くことに変わりはない。
それでは、巨大なフーコーの振り子を赤道上につくったらどうなるだろうか。赤道上ではフーコーの振り子を東西に振らせてもコリオリの力は働かないので振動面は変化しない。しかし、南北に振らせれば、巨大振り子の重りは赤道を横断しながら振動するので、海流図と同じく、重りが北半球に行けば右回り、南半球では左まわりの軌道になろう。しかし、南北の違いが目に見えて現れるようなフーコーの振り子を赤道に建設するにはどれだけの長さの振り子をつくればようだろうか。それを支えるロープは何処から吊るせばよいだろうか。
JAXAは、静止衛星の公転面を傾けるだけで、「みちびき」という巨大なフーコーの振り子を赤道上に創ったようである。ロープもそれを支える建物も作らず、座標変換による遠心力と重力とを釣り合わせ、吊りロープのない振り子を準天頂衛星として天空に浮かしている。準天頂衛星の軌道は図2のように、北半球ではコリオリの力によって右回り、南半球では左周りに8の字を描いている。地上から見上げれば、8の字の運動は図2と逆回りに見える。(図2はJAXAのホームページから引用)図2上図の場合、衛星の軌道は静止衛星と同じく円軌道だが、静止衛星と異なる点は軌道面が赤道面から傾いていることである。また、地球の自転周期と同じ周期を持つ楕円軌道であれば、地上から見た軌道は南北で非対称な8の字になる。
さて、長崎は坂と墓の多い所と言われる。サカとハカに加え、ついでにバカも多いと言われるが、長崎はそれだけではない。日本一長い振り子がある。長崎の黄檗宗の寺、福済寺には長さが25mのフーコーの振り子が、10秒の周期で振れ、その振動面が、一日当たり175.7度変化している(福済寺の床)。福済寺の振り子を赤道に移転しても、その振れ幅は地球に比べれば小さく、振り子の振動面が変化することはなく、8の字を描くこともないだろう。日本一の振り子とは言え、JAXAが打ち上げている天空の振り子には負ける。フーコーの振り子の重りにコリオリの力が働き、振動面が変化するのは、振り子を見ている観測者が立っている福済寺の床が、鉛直軸のまわりに、Ωsinφの角速度で回転しているからである。ここでΩは地球の自転の角速度であり、φは福済寺の緯度である。
地球の自転が目の前で簡単に観測できるという点では福済寺の振り子が日本一であることに変わりないが、長崎はもう一つの日本一がある。一般には、ほとんど知られていないが、おそらく、全国で一番、黄金比が多い都市である(長崎の街をさるけば黄金比)。観光地の長崎だが、訪問されるなら、ついでに、福済寺の振り子と道路のマンホールの見学をおすすめしたい。
コメント
福済寺のフーコーの振り子はここ数年間、故障してます。
清崇君ありがとう。最近、外に出かけないので知らなかった。