糸で結ばれた二つの質点

 図1のように、どちらも質量が{ m }の質点1と質点2とが長さ{2l}の、弾性のない糸で互いに結ばれた系を考える。原点に質点2を置き、質点1をx軸上の、原点から、2aだけ離れた点に置く。最初、質点1も質点2も静止しているとする。但し、糸の長さ2lは2質点間の距離2aより長いとする。この状態において、質点1に撃力を{x}の正方向に加えた場合(A)、および、同じく質点1に撃力を{y}方向に加えた場合(B)とについて、系の運動を考えてみる。
A 質点1に{x}方向の撃力を加えた場合
 時刻{t}=0に、質点1に撃力を加えると、質点2は原点に静止したままで、質点1が一定の速さ{v}{x}軸上を正の方向に動き出す。最初、糸は弛んだままだが、ある時刻に両質点を繋いだ糸はピンと張り、二つの質点は糸をとおして瞬間的に相互作用する。その後、2質点は、両者の間隔を長さ{2l}に保ったまま、速さが{v}/2となって運動する。相互作用の前後で質点系のエネルギーがどうなるかを考えてみよう。
 糸が弛んでいるとき、つまり、質点2はまだ原点に静止したままで、質点1のみが速度vで運動しているとき、質点系のエネルギー{E}は質点1の運動エネルギーのみであるから
 E=\cfrac { 1 }{ 2 } { mv }^{ 2 }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 1 \right)   
 ここで、系のエネルギー{E}は重心の運動エネルギー{ E }_{ G }と、重心に相対的な運動、つまり内部運動のエネルギー{ E }^{ \prime  }との和で表わされる。重心の速度はv/2、重心に相対的な速度は、質点1が{ v }/{ 2 }、質点2は{ -v }/{ 2 }である。よつて、
 { E }_{ G }=\cfrac { 1 }{ 2 } \left( 2m \right) { \left( \cfrac { v }{ 2 }  \right)  }^{ 2 }=\cfrac { m{ v }^{ 2 } }{ 4 }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 2 \right)     
 { E }^{ \prime  }=\cfrac { 1 }{ 2 } m{ \left( \cfrac { v }{ 2 }  \right)  }^{ 2 }+\cfrac { 1 }{ 2 } m{ \left( -\cfrac { v }{ 2 }  \right)  }^{ 2 }=\cfrac { m{ v }^{ 2 } }{ 4 }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 3 \right)      
となる。当然、E={ E }_{ G }+{ E }^{ \prime  }が成り立つ。やがて、質点1の重心から距離が2lになったとき、糸はピンと張り、2質点の間に瞬間的に相互作用が起き、重心から見た質点1および質点2の相対速度が0になるから、{ E }^{ \prime  }が0となり、{ E }_{ G }は相互作用によって変わらないので、系のエネルギーは{ E }_{ G }のみとなり、相互作用をするまえの半分になる。その後、2質点の距離は一定に保たれたまま、2質点は、質点1の最初の速さの半分の速さで運動する。これは一種の完全非弾性衝突と考えられる。静止している質点2に質点1衝突し、衝突後、両者が一体となって運動する場合と同じである。糸がはじめから弛んでいないとき、つまり、糸の長さ2l2aに等しいときは、最初から2質点は{v}/2の速さで運動する。
B 質点1に{y}方向の撃力を加えた場合
 Aの場合と同様な質点の配置において、同じく質点1に、今度は撃力を{y}方向に加えると、質点2は原点に静止したまま、質点1だけが{y}方向に速さ{v}で等速度運動を始める。その後、質点1の原点からの直線距離が{2l}になったとき、糸がピンと張り、質点1と質点2との相互作用が始まる。相互作用が始まるまでは、1.の場合と同じく、(1)式、(2)式および(3)式が成り立つが、相互作用が始まるとどうなるだろうか。
 まず、相互作用が始まる前について考える。質点1に撃力が働いた後、時間tが経過したが、糸がまだ弛んでいる状態を考えよう。二つの質点の間に相互作用はないが、2質点からなる系の重心は{y}方向に { v }/{ 2 }で運動する。重心に対する質点の相対運動は、質点1は{y}方向に速さ{ v }/{ 2 }で運動し、質点2は{y}方向に速さ-{ v }/{ 2 }で運動していることになる。質点1も質点2も重心のまわりに左まわりの角運動量m\cdot { v }/{ 2\cdot a=mva/2 }を持つので系全体の角運動量はL
 L=mva\quad \quad \quad \quad \quad \left( 4 \right)     
となり、各運動量は一定となる。また、質点と重心間の距離はrであるから、重心の周りの慣性モーメントは
 I\left( r \right) =2m{ r }^{ 2 }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 5 \right)       
となり、rが変化するので、慣性モーメントも変化する。
 重心運動のエネルギー{ E }_{ G }は、Aの場合と同じく、この場合も、
 { E }_{ G }=\cfrac { 1 }{ 2 } \left( 2m \right) { \left( \cfrac { v }{ 2 }  \right)  }^{ 2 }=\cfrac { m{ v }^{ 2 } }{ 4 }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 6 \right)     
となり、一定であるが、内部運動には、重心のまわりの回転運動と、系の伸び運動の二つがが存在する。後者の伸び運動とは、系の長さが変わる運動だから、系の変形運動である。前者の回転運動のエネルギー{ E }_{ rot }は、
 { E }_{ rot }\left( r \right) =\cfrac { { L }^{ 2 } }{ 2I\left( r \right)  } =\cfrac { m{ v }^{ 2 }{ a }^{ 2 } }{ 4{ r }^{ 2 } } \quad \quad \quad \quad \quad \left( 7 \right)      
となる。重心を原点とする極座標で質点1の座標を表示すると、\left( r,\theta  \right) と表すことができる。 rが伸びる速さ\dot { r } は重心系での質点1の速度がv/2であるから、
 \dot { r } =\cfrac { v }{ 2 } \sin { \theta  }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 8 \right)     
であり、質点1、質点2ともに等しい伸びのエネルギーを持つので、伸びのエネルギー{ E }_{ d }は、
 { E }_{ d }\left( r \right) =\cfrac { 1 }{ 2 } m{ \left( \cfrac { v }{ 2 } \sin { \theta  }  \right)  }^{ 2 }\times 2=\cfrac { m{ v }^{ 2 } }{ 4 } \cfrac { ({ r }^{ 2 }-{ a }^{ 2 }) }{ r^{ 2 } }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 9 \right)     
 (7)および(9)式から、
 { E }_{ rot }\left( r \right) +{ E }_{ d }\left( r \right) ={ E }^{ \prime  }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 10 \right)     
となる。
 2質点間の距離2rが、2質点を結んでいる糸の長さ2lに等しくなると、糸はピンと張り、その後の運動は重心運動と回転運動のみとなる。重心運動のエネルギーは変わらず、回転運動のエネルギーは、
 { E }_{ rot }\left( l \right) =\cfrac { m{ v }^{ 2 }a^{ 2 } }{ 4{ l }^{ 2 } }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 11 \right)      
となり、一定値となるが、伸びのエネルギー{ E }_{ d }\left( l \right) は0となる。
 糸がピンと張る直前、つまり、2質点の‘衝突’が起きる直前の、重心系から見た質点1のr方向の運動量{ p }_{ r }
 { p }_{ r }=\cfrac { mv }{ 2 } \sin { \theta =\cfrac { mv }{ 2 } \cfrac { \sqrt { { l }^{ 2 }-{ a }^{ 2 } }  }{ l }  }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 12 \right)       
となるが、相互作用が始まった瞬間、(12)式は0となるので、そのためには質点1には撃力fが重心方向に働き、撃力の力積 \bar { f } は(12)式の右辺に等しくなければならない。質点2についても質点1とは逆向きの力積が働く。つまり、両質点の衝突によって両質点に働く力積の大きさは
 \bar { f } =\cfrac { mv\sqrt { { l }^{ 2 }-{ a }^{ 2 } }  }{ 2l }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 13 \right)     
 衝突の前後で質点1および質点2の\theta 方向の速度成分は保存されるので、衝突後の回転の角速度を\omegaとすれば、
 \omega l=\cfrac { v }{ 2 } \cos { \theta =\cfrac { va }{ 2l }  }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 14\right)      
 よつて、回転のエネルギーは
 \cfrac { 1 }{ 2 } { I }\left( l \right) { \omega  }^{ 2 }=\cfrac { m{ v }^{ 2 }{ a }^{ 2 } }{ 4{ l }^{ 2 } }\quad \quad \quad \quad \quad \left( 15 \right)       
となり、(11)式と一致する。
 糸の長さ2lを短くすると、質点1と質点2との相互作用が始まる時刻が早まる。糸の長さが2aに等しくすると、質点1に外力を加えると同時に相互作用が始まる。しかし、そのときの内力の力積は(13)式から0となる。つまり、糸にたるみがない状態で、質点1に外部から撃力を加えたとき、2質点間に働く内力は撃力でなく円運動を起こすための向心力だけである。この場合は質点1も質点2も最初からy方向にサイクロイド曲線を描きながら運動する。
 Aの場合もBの場合も、系の並進運動(重心運動)に、仕事をしてエネルギーを与えるのも、力積を及ぼし、系に運動量を与えるのも、最初に質点1に加えた外力だけである。その後に働く内力は、並進運動のエネルギーも系の運動量も変化させることはできない。しかし、内力は内部運動に対しては仕事(この場合は負の仕事)をし、内部運動のエネルギーを変化させることができる。
  

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