8の字図形の不思議

 「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」小学校でそう習ったものの、教えに背き自由気ままに今日まで生き、ふと気づけば、齢79にして未だ学成らず。人生の黄昏も釣瓶落とし。物忘れはひどく体力も急に衰えてきたが、まだ一寸ぐらいの時間は残されていよう。

 80の大台を目前にし、8の字形(または∞字形)について考えてみた。0をねじってできる8の字、アラビア数字のなかで、0とともに閉曲線をなす8の字、物理、数学、天体運動、それに日常にと、まるでエイトマンのように現れる神出鬼没の8の字、不思議な8の字図形について考察してみた。

1.バネ付き振り子

 バネ付き振り子の長さを適当な長さに調節して、初期条件として重りに上下振動①を与えると、やがて横振動が現われ、重りは図のような∞字形の運動②をする。∞の横幅が伸び縦幅が縮み③、やがて横振動だけの④になると、次は横振動が縮み始め縦振動が現れ、再び∞振動⑤になる。このとき、横振動④の前後で縦振動の位相が逆転するために、③と⑤とでは∞字運動の向きが逆になる。さらに横振動が縮み縦振動が伸び⑥になり、最初の縦振動の状態①に戻り、再び②が始まる。このとき、①の前後で今度は横振動の位相が反転するため、⑥と②とでは運動の向きが逆になる。①→④の過程では縦振動のエネルギーが横振動に移動し、④→①の過程では横振動のエネルギーが縦振動に移動する。エネルギー移動が反転する瞬間、減衰してしまった方の振動に位相の反転が起こる。

 長さの等しい二つの振り子からなる連成振動が線形振動であるのに対し、バネ付き振り子は非線形振動だが、どっちらも二つの振動の片方が振幅0になるごとに位相の反転が起こり二つの振動間のエネルギーの流れが反転している。詳しくは→バネ付き振り子 

参考動画:バネと振り子の共振実験

2.ブランコとボタフメイロ

 ブランコでの人の重心もボタフメイロの重りも∞文字を描く。∞文字運動の向きは下図のAとBとが考えられるが、ブランコもボタフメイロも、横揺れが増すときは、8の字軌道の上で重心が動く向きはパターンAであり、Bではない。

詳しくは→ブランコとボタフメイロ

3.準天頂衛星

 衛星放送の静止衛星は赤道面の円軌道に打ち上げ、衛星の公転周期が地球の自転周期と一致する高度に打ち上げている。地球の自転の角速度をΩ 、静止衛星の公転周期をωとすると、地上から見た衛星の公転の角速度ω’は、ω’=ωΩ となり、静止衛星ではωΩであるから、ω’=0となり、衛星は赤道の上空に静止して見える。

 準天頂衛星みちびきでは衛星の公転周期と地球の自転周期とは一致しているが、衛星の公転の角速度ωは地球自転の角速度Ωと等しくはない。一番上の図は、赤道面から傾いた円軌道に打ち上げた場合であり、ωΩの大きさは等しいが、両者の向きが異なる。下の二つの図では、地球の自転周期と同じ周期の楕円軌道に打ち上げた場合であり、ωは近地点では大きく、遠地点では小さく、一定ではなくなる。

 左図で表されるみちびきの軌道図は、衛星の軌道を、自転している地球の表面に投射した点の軌跡であるが、なぜ、左図のようになるか、そして、曲線上をどのような向きに動くのか、まともに考えようとすると気が狂いそうになるが、慣性座標系からΩ回転座標系への座標変換によるコリオリの力によつて簡単に説明できる。コリオリ―の力は進行方向に対し、北半球では右向きに働き、南半球では左向きに働くので、準天頂衛星軌道を地球表面に投射すると、その軌道は地表に8の字を描くことになる。詳しくは→天空に浮かぶフーコーの振り子

 準天頂衛星が描く8の字は地球の自転と衛星の公転の周期は等しいが、角速度の向きが異なるために生じるが、地球自身の自転と公転の角速度の向きが異なるために、同時刻での太陽の天球上の位置の季節変化が描く8の字をアナレンマ(日時計の意味)と呼ぶ。→枕草子と日常に学ぶ四季の移ろい

4.等質量天体の三体問題

 三つの物体が、互いに万有引力を及ぼし合いながら運動するとき、一般にはカオスになり運動を予測できないが、ある特殊な初期条件のもとでは安定な解が存在することが知られている。それはラグランジュの解と呼ばれ、直線解と正三角形解があり、太陽系において実現している。→宇宙の浮舟 さらに、三つの天体の質量が完全に等しい場合には、三つの物体が8の字の同一軌道を描きながら運動する、8eight orbit が存在することが2001年に発見されている。しかし、現実には、三つの天体の質量が等しくなることはないので、天体の8の字軌道は計算機の中でしか実現できない。

5.「8の字」のトポロジー

 8の字図形トポロジーは興味深く、身近な生活のなかにも応用されている。長いロープやホースを使用後、巻いて片付けるのに、8の字巻きという巻き方がある。普通の巻き方では、次に伸ばして使用するとき、ねじれてしまう。しかし、8の字巻きにしておけば、伸ばしたとき、右ねじれと左ねじれとが打ち消し合い、ねじれることなくまっすぐに伸ばすことができる。

参考動画 8の字巻き

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