地球の自転と月の公転

 先に、「秋の夜長の月物語」で、潮汐摩擦による地球と月の運動の永年変化について定性的な話をしたが、ここでは、その定量的な計算を試みてみよう。
エネルギーの移動
 月が、質量Mの地球の周りの、半径rの円上を角速度ωで運動をしているとすると、運動方程式から、
              r3ω2=GM           (1)
但し、Gは万有引力定数である。
 さらに、地球と月は潮汐摩擦を通して相互作用しているが、地球と月からなる系の角運動量は、外力が無視できれば、保存している。つまり、月の質量をm、地球の慣性モーメントおよび自転の角速度を、それぞれ、IおよびΩとすると、
             IΩ+mr2ω=一定        (2)
となる。
 月の公転の力学的エネルギーをeとすると、e=mr2ω2/2-GmM/rであるから、(1)式を用いてωを消去すると、
               e=-GmM/2r          (3)
となる。地球の自転のエネルギーEは
               E=IΩ2/2           (4)
 地球の自転および月の公転運動は、(1)と(2)の関係を保ちながら、潮汐摩擦のため、Ωとrが極めてゆっくり変化しているので、Eやeもゆっくり変化していることになる。
(1)~(4)式から、時間tで微分することによって
       (de/dt)/(-dE/dt)=ω/Ω          (5)
が導かれる。
 (5)式の右辺は地球の自転周期と月の公転周期の比であり、約1/27であるから、地球の自転が失ったエネルギーはすべて摩擦熱になるのではなく、その一部、1/27程度は月の公転運動に還元され、月は遠ざかっているのである。
うるう秒
 次に地球の自転について考えてみよう。(5)式から
        (dΩ/dt)/Ω=mr2ω/(-2IΩ)・(dr/dt)/r    (6)
となる。
 月の公転半径は約38万㎞であるが、NASAの観測によれば、1年間当たり、3.8㎝ずつ遠ざかっている。つまり、(dr/dt)/r=1.0×10-10/年 となる。また、月の公転の角運動量 mr2ω は地球の自転の角運動量IΩの5倍ほどである。さらに地球の自転周期をTとすると、(dΩ/dt)/Ω=-(dT/dt)/Tである。よつて(6)式から(dT/dt)/T=2.5×10-10/年、あるいは、公転周期Tは86400秒であるから、dT/dt=2×10-5秒/年となる。これは、1年後の1日の長さは今日1日の長さより2×10-5秒だけ長くなることを意味している。
 この量、つまり、1年間に1日の長さが長くなる速さ、2×10-5秒/年をεとすると、n年後の1日の長さは、今より、nεだけ長くなる。これは今後n年の間にやってくる365n日の、一日一日が、平均的にnε/2だけ長くなることを意味している。よつて、地球時計は原子時計に対して、今後n年の間に365n×nε/2=183n2εだけ遅れることになる。この遅れは、約17年で1秒に達する。
 よつて、潮汐摩擦による地球自転の遅れによる地球時計と原子時計とのずれを補正するためには約17年ごとに1秒だけ原子時計を遅らせればよい。しかし、実際には3~4年ごとに、その年の1月1日または7月1日に、うるう秒が取り入れられ、その度に原子時計を1秒遅らせている。
 うるう秒が、17年に一度でなく、より頻繁に取り入れられるのは、自転周期の長さが、もともと24時間ぴったりでなく、24時間よりも、1ミリ秒~3ミリ秒ほど長いため、それが累積されて生じる時間のずれのほうが、潮汐摩擦によるずれよりも大きいからである。

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