猫の逆さ落とし

 猫の両手両足を持ち、逆さにして背中から落とすと、猫は空中で体を捩じるとともに、手足を屈伸させながら、体の向きを変え、足から着地する。
 猫が完全に静止した状態から落とされたとすると、猫の角運動量は最初はゼロであり、途中も角運動量の保存則からゼロであるはずである。それにもかかわらず、猫は自分の体の向きを変えることができるのである。これは、一見、不思議に思えるが、この猫の逆さ落としは、次のように、比較的簡単に説明ができる。
 猫の体を上半身と下半身に分けて考えてみよう。猫が体を捩じると、上半身と下半身のそれぞれに逆向きの角運動量が生じる。もともと全体の角運動量はゼロであるので、外力のモーメントが働いていなければ、上半身と下半身に生じた二つの角運動量は大きさが等しく、向きは互いに逆でなければならない。
 このとき、回転角も上半身と下半身では逆向きとなるが、その大きさは、それぞれの慣性モーメントが小さいほど大きくなる。
 まず、猫は前足を縮め、首をすくめて上半身の慣性モーメントを小さくし、一方、後足としっぽを広げ下半身の慣性モーメントは大きくして、体を捩じると、慣性モーメントの小さい上半身の回転角が大きく、下半身の回転角は小さい。
 次に首を上げて前足広げ、後足としっぽを縮めると、上半身と下半身の慣性モーメントの大きさが逆転するので、その状態で体を逆にねじれば、今度は上半身はあまり回転せず、下半身の回転角が大きくなる。
 最初のねじりで上半身の回転角を正とすれば、その回転角の大きさは大きく、下半身の回転角は負となるが、その大きさは小さい。つまり、ほぼ、上半身のみが正の方向に回転する。
 上半身と下半身の慣性モーメントの大きさを逆転させた、次の逆向きのねじりでは、上半身は負の向きに回転するがその回転角は小さく、今度は下半身の正の向きの回転角が大きくなる。つまり、猫は最初のねじりで上半身を回転させ、次の逆向きのねじりで下半身を回転させている。
 こうして、逆さに落とされても、猫は、頭や手足や尻尾を屈伸させ、上半身と下半身の慣性モーメントを巧妙に変化させることにより、猫全体の角運動量を常にゼロに保ったままで、体の向きを変えることができるのである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました