複素解析と正多角形の幾何学

正n多角形の定理
左図のように、一般に、単位円に内接する正n角形P0P1P2・・・Pk・・・Pn-2Pn-1において、直線P0Pkの長さをρk(k=1,2,・・・n-1)としたとき、それらn-1本の線分の長さの積、ρ1ρ2・・・ρk・・・ρn-2ρn-1をAnとすれば、
An=n     (1)
が成り立つ。まず簡単な場合から、(1)式を順次証明してみよう。

n=3,4,6の場合
内接正3・4角形
単位円に内接する正三角形の辺の長さは上の左図から√3であるから、A3=3 になることは明らかである。また、n=4 の場合は単位円に内接する正方形の辺の長さは√2 であり、対角線の長さは2であるから。A4=4 も明らかであろう。
正六角形

n=6 の場合も簡単に証明できる。P0からPkに引いた線分の長さをρk(k=1,2,3,4,5)とすると、その長さは図中に示した値になるので、A6=1×\sqrt { 3 }×2×\sqrt { 3 }×1=6 となる。

n=5の場合
正五角形の場合はsin36°の値を求めなければならないので、少々難しくなるが、三角関数の訓練にもなるので、n=5の場合も証明しておこう。
正5角形
ρ1=ρ4=2sin36°
ρ2=ρ3=2sin72°=4sin36°cos36°
ここで、θ=36°、sinθ=xとすると
A51ρ2ρ3ρ4 = 64x4 (1-x2)     、
また、5θ=180°であるから
2θ=180°-3θ、よつてsin2θ=sin3θ
倍角および3倍角の公式より
2cosθ=3-4sin2θ
2√(1-x2)=3-4x2
左辺は正であるから右辺も正。
よつてx2<3/4 でなければならない。
4(1-x2)=(3-4x2)2
よつて、16x4-20x2+5=0  これを解くと
x2=(10±2√5)/16 となるが、x2<3/4であるから、
x2=(10-2√5)/16 となる。よつてA5=5となる。

尚、正五角形の場合、ρ21=2cos36°=(1+2√5)/2 となるが、これは黄金比に等しい。
一般的な正n角形における証明
正n多角形の定理
正n角形について、(1)式を一般的に証明するには、複素解析の手法を用いる。
3以上の整数nに対してzを未知の複素数とするn次方程式
zn-1=0       (2)
を考える。z=1は(2)の解だから、
zn-1=(z-1)f(z)         (3)
と因数分解できる。ここで、
f(z)=zn-1+zn-2+…+z2+z+1     (4)
であり、f(1)=nである。
一方、方程式(2)はn個の解を持ち、それは、1,ei2π/n,ei4π/n,…,ei2πk/n,…,ei2π(n-1)/nとなるが、これらは複素平面の原点を中心とする単位円の円周上にあり、単位円に内接する正n角形の頂点、P0,P1,…,Pk,…,Pn-1に対応している。よつて、因数定理を複素数まで拡張すれば、(2)式の左辺zn-1は、次のように因数分解できななければならない。
zn-1=(z-1)(z-ei2π/n)(z-ei4π/n)…(z-ei2πk/n)…(z-ei2π(n-1)/n)    (5)
(3)と(5)を比較すると、f(z)は次の式も満たさなければならない。
f(z)=(z-ei2π/n)(z-ei4π/n)…(z-ei2πk/n)…(z-ei2π(n-1)/n)             (6)
(6)式はzの恒等式だから、これにz=1とおくと、
(1-ei2π/n)(1-ei4π/n)…(1-ei2πk/n)…(1-ei2π(n-1)/n)=f(1)=n となり、両辺の絶対値をとると、
|1-ei2π/n|・|1-ei4π/n)|・…・|1-ei2πk/n|・…・|1-ei2π(n-1)/n|=nとなり、絶対値|1-ei2πk/n|はP0とPkとの距離ρkに等しくなるので、
An1ρ2…ρk…ρn-1=n
となる。
尚、この問題はT大学の理学系分野の大学院入試の過去問から引用した。

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