赤ちゃんのギックリ腰

 数日前、庭の木を切っていたとき、次第に腰が痛くなり、軽いギックリ腰になったようです。趣味のテニスは自重して休んでいますが、私の腰痛とのつきあいは、30年近く前の、テニスの試合途中でのギックリ腰に始まります。
 ボールを打った瞬間に激痛が走り、そのまま動けなくなりました。妻が、まだ赤子だった娘を抱っこして、テニスコートに駆けつけてくれましたが、どうにもならず、そのまま、家族にも同乗してもらって、救急車で整形外科の病院に運び込まれるはめになりました。
 ギックリ腰の辛さは経験しないとわからないと思いますが、動いても、じっとしていても痛くて、救急車の担架から病院のベッドに移されるときは、これで、一生、寝たきりになるのかと思いました。
 入院が必要になり、娘を看護婦さんに一時預け、妻が着替えや、娘のオムツなどを、家から持ってきて、しばらく家族3人で病院に泊まることになりましたが、あとで聞いた話によれば、そのことで、病院の患者さんの間におかしな噂が広がったそうです。
 整形外科の病院なのに、夜になると、ある病室から、なぜか、赤ちゃんの泣き声が聞こえる!それは、病院内のちょっとした怪談になったそうですが、さらに、患者さんが、看護婦さんに聞いた「真相」を、仲間に語るうちに、伝言ゲームのように、憶測や目撃者の証言も入りまじり、一つのストリーが出来上がったようです。
 しゃっくりが原因で赤ちゃんがギックリ腰になったそうな。救急車で運ばれてきて、担架から病院のベッドに、数人がかりで移されるときは、そりゃ大変だったが、今、その赤ちゃんが、あの病室に入院しているそうな。可哀そうに。そんな話になったそうです。そう言えばあのとき、娘を抱いてくれていた看護婦さんが娘のしゃっくりが止まらないので、塩をなめさせていました。塩の辛さに驚いてしゃっくりが止まるそうです。
 病院に1週間ほど入院していましたが、退院直後は、まだ徒歩での通勤はつらく、タクシーでの通勤になり、痛みを我慢して乗り込み、行く先を大学だと告げると、その様子を見た運転手さんが、間違えて大学病院に連れていってくれたこともありました。
 結局、完治するまでに1ヶ月以上かかり、その後も、年に一度はギックリ腰になり、その度に治るまで1週間ほど寝込んでいましたが、定年後は腰の調子はよく、今回、久々のギックリ腰でした。幸い、いつもより症状は軽く来週にはコートに復帰できそうです。
 猿から進化した人間は、二足歩行することで自由になった両手を使い、土器や石器を作りました。両手の使用は脳の発達を促し、今日の高度な文明を創りあげましたが、その代償として人類は腰痛に悩まされるようになったそうです。二足歩行によってもたらされた腰痛は文明病の一種と言えるかもしれませんが、進化論に逆行して、四足歩行の猿には戻れないので腰痛は人類の宿命なのでしょう。
 母親の胎内で受精したときから、人の成長は、太古の昔の生命の誕生から人類の出現に至るまでの進化の歴史を辿っていると言われています。それなら「餅踏み」で祝う1歳誕生日あたりが、人類が猿から進化した時代に相当するのかも知れません。猿の顔をして生まれ、まだハイハイもままならぬ生後数ケ月の赤ちゃんが、しゃっくりぐらいで歩きだすまえからギックリ腰になることはないでしょう。
 しかし、既に「ハイハイ」から「二足歩行」に移行し、数十年が経過した大人は、くしゃみしただけでぎっくり腰になることもあるようですから、気をつけなければならないでしょう。最近は晩婚化が進んだためか、育児による腰痛や肩こりが増えているようですが、30年前のテニスコートでの、私の最初のギックリ腰も、その遠因は、時代に先駆けて行っていた「イクメン」にあったのかもしれません。
 当時、丸々太っていた歩きだす前の娘を抱っこ紐で抱えて、毎日のように外に連れ出していました。ものも言えず、夏の日に汗だくになって抱っこされていた娘こそいい迷惑だったと思いますが、世のイク爺やイク婆の皆様、今度は孫の世話でギックリ腰にならぬよう充分お気をつけ下さいませ。

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