滑りながら転がる球

 水平な床の表面状態が {x }=0で二分され、 {x } <0の領域では滑らかで、 { x } >0では粗いとする。 {x } <0 の領域を、回転せずに 速度 { v }_{ 0 } で滑ってきた球が、時刻t=0に { x } >0 の領域に入り、 時刻 { t }_{ 1 } に、球は滑ることなく、床を転がり始めた。 球の半径 を{ a }、質量を { M } 、慣性モーメントを kM{ a }^{ 2 } とし、 さらに { x } >0 の領域での、球と床の間の動摩擦系数をμ、転がり摩擦を0として次の問に答えよ。 

問1 時刻 { t } における 球の並進速度を { v } 、回転の角速度をωとして、時刻 { t } が0< { t }{ t }_{1} における球の運動方程式を求めよ。 

問2  { t }_{1} の値を求めよ。

問3 球が、滑ることなく転がるまでに失った力学的エネルギーの大きさを求めよ。

解答および解説  

(問1) 球に働く水平方向に力は、球の進行方向と逆向きに働く摩擦力 \mu Mg  であるから、(1)並進運動および(2)回転運動の運動方程式は、それぞれ、

(1)並進運動の運動方程式は M\dot { v } =-\mu Mg であるから、簡単に \dot { v } =-\mu g となる。

(2)回転運動の運動方程式は:kM{ a }^{ 2 }\dot { \omega  } =\mu Mga だから \dot { \omega  } =\frac { \mu g }{ ak }  となる。

(1)は並進速度が一定の割合で減少することを示し、(2)は角速度が0から一定の割合で増加することを示している。

(問2) 初期条件を考慮して(1)および(2)を時間で積分すると、

(3)並進速度: v={ v }_{ 0 }-\mu gt

(4)角速度: \omega =\frac { \mu g }{ ak } t  

となる。滑らない条件 v=a\omega が成り立つ時刻が { t }_{1} であるから、(3)と(4)から { t }_{1} を求めると、

(5)  { t }_{ 1 }=\frac { k }{ \left( 1+k \right) \mu g } { v }_{ 0 }

(問3) 時刻0における球の力学的エネルギー{ E }_{ 0 }

{ E }_{ 0 }=\frac { 1 }{ 2 } M{ v }_{ 0 }^{ 2 }

(3)と(5)および(4)と(5)から、時刻 { t }_{1} 以後の速度{ v }_{ 1 }および角速度 { \omega  }_{ 1 } は、それぞれ、

{ v }_{ 1 }=\frac { 1 }{ 1+k } { v }_{ 0 }

{ \omega  }_{ 1 }=\frac { 1 }{ \left( 1+k \right) a } { v }_{ 0 }

となる。よって 、 { t }_{1} における球の並進運動のエネルギー:{ E }_{ G }\left( { t }_{ 1 } \right) 、および回転の運動エネルギー:{ E }_{ R }\left( { t }_{ 1 } \right) は、それぞれ、

(6) { E }_{ G }\left( { t }_{ 1 } \right) =\frac { 1 }{ { \left( 1+k \right)  }^{ 2 } } { E }_{ 0 }

(7) { E }_{ R }\left( { t }_{ 1 } \right) =\frac { k }{ { \left( 1+k \right)  }^{ 2 } } { E }_{ 0 }

 力学的エネルギー:E\left( { t }_{ 1 } \right) は (6)と(7)より、 E\left( { t }_{ 1 } \right) =\frac { 1 }{ 1+k } { E }_{ 0 }

 よって、球が滑らずに転がるまでに失う力学的エネルギーは、 \frac { k }{ 1+k } { E }_{ 0 }  となり、動摩擦係数μに依存しないことがわかる。さらに、これまでの議論は物体が球(k=2/5)の場合だけでなく、円柱(k=1/2)の場合も円筒(k=1)の場合にも成り立つ。球の場合は最初のエネルギーの2/7が失われ、円柱や円盤では1/3、円筒では1/2が失われる。

問3の別解

 時刻が0から { t }_{1} までに球が移動した距離Lおよび球が回転した角度Θは、それぞれ、(3)の並進速度および(4)の角速度から求められる。摩擦力FμM{g}は一定だから、摩擦力が並進運動にした仕事: { W }_{G} 、および、回転運動にした仕事: { W }_{R} をそれぞれ、 { W }_{G} =-FL および { W }_{R}{a} FΘ と計算し、並進運動および回転運動のエネルギーを求めても同じ結果となる。

 Lは球の移動距離、 {a} Θは球が転がった距離だから、 S=L- {a} Θ は滑った距離だから、生じる摩擦熱は、QFS となり、その値は力学的エネルギーの損失と等しくなる。

蛇足ながら

 「ローラー引きの力学」では、摩擦力はローラーの並進運動に負の仕事をし、回転運動に正の仕事をしたが、この問題も、摩擦力は、球の並進運動と回転運動に、それぞれ、負と正の仕事をしている。ローラーの問題では、ローラーは滑らないので負と正の仕事が打ち消し合うのに対し、今回の問題は球が滑りながら転がっているので打ち消し合わない。どちらの場合も、動かない地面や床がローラーや球に及ぼす摩擦力によって回転のエネルギーが増す。力が物体の並進運動にする仕事は、力×物体の移動距離であり、回転運動にする仕事は、力のモーメント×回転した角度である。 

類題

  {v}_{ 0 }={0} で 、回転の初期角速度を { \omega  }_{ 0 } と与えた場合はどうなるだろうか。

 

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