自転車が道路を走るしくみ

 自転車に乗って加速する場合、人と自転車の系の並進運動に仕事をするのは、ペダルを踏む人の筋力だろうか。それとも、道路との摩擦によって、自転車のタイヤが道路から受ける水平抗力だろうか。

自転車が受ける水平抗力

 図のように、系に働く外力は、後輪のタイヤに前向きに働く抗力Fと、前輪のタイヤに後ろ向きに働く抗力fのみである。

 筋力も当然仕事をするが、その仕事の対象は、前輪の回転運動ではなく、人と自転車からなる系の並進運動でもなく、筋力は後輪の回転運動に対して仕事をする。乗り手がペダルを踏んで、後輪の回転運動に力のモーメントを与えて仕事をすれば、道路からの抗力の有無に関わらず、後輪の回転エネルギーが増す。

 このとき抗力がなければ、後輪が回転するだけで、回転のエネルギーが並進運動に伝わることはないが、道路と後輪のタイヤの間に摩擦があれば、水平抗力F が後輪のタイヤに働き、Fは、後輪に逆回りの力のモーメントとして作用し、後輪の回転運動に負の仕事をすると同時に、系の並進運動に正の仕事をする。

 並進運動が生じれば、今度は前輪のタイヤに抗力fが働き、fは前輪の回転運動に右回りの力のモーメントとして仕事をするとともに、並進運動に負の仕事をする。

 以上から、自転車が微小距離dxだけ進む間に、筋力が後輪の回転運動にした仕事のうち、抗力は、並進運動に、(Ff )dxの仕事をすることになる。道路から受ける抗力が並進運動に仕事をしているが、エネルギー源は道路ではない。

 エネルギー源は人であり、人はその筋力によって後輪の回転運動に仕事をする。その結果、エネルギーを得た後輪がエネルギー源となって後輪が道路に加えた反作用の力F が並進運動に作用し、Fが並進運動に仕事をする。そして、今度はエネルギーを得た並進運動がエネルギー源となって、前輪の回転運動にfが作用し、そのfが前輪の回転運動に仕事をする。

 もともとのエネルギー源は人であるから、自転車の細部の運動に至るまで、そのエネルギーは人の筋力が生み出した力学的エネルギーであることは明白だが、仕事をしたのもすべて筋力だとしては、エネルギーが配分されるしくみが説明できない。

 抗力は作用点が動かないので仕事をしないという固定観念から抜け出せないドンブリ勘定的思考からは、エネルギー伝達についての新しい知見は生まれない。抗力が仕事をすると考えてもエネルギー保存則に反しない。また高校物理教科書に記述されている仕事の定義にも反しない。



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