車の発進とエンジンブレーキとEV車

 ガソリン車が発進するとき、その力学的エネルギーを作り出すのはエンジンだが、エンジンが仕事をするのは、車の駆動輪の回転運動に対してであり、道路から受ける進行方向の力がなければ、駆動輪は空転するだけで、そのエネルギーが車の並進運動に伝わらない。

 エンジンブレーキは、並進運動のエネルギーをエンジン内部の抵抗で熱に変えて減速させるしくみである。このとき、エンジンは仕事をする側ではなく、仕事をされる側になる。ガソリンが補給されないエンジンに何が仕事をするのだろうか。それは車の進行方向と逆向きに道路から働く水平抗力以外に存在しない。発進する場合とは逆に、今度は、水平抗力が車の並進運動に負の仕事をしてエンジンに仕事をする。抗力のする正と負の仕事によって、並進運動のエネルギーはピストンの運動エネルギーに伝達され、それがエンジン内部の抵抗によって失われる。

 EV車では、ガソリン車がエンジンブレーキで失う力学的エネルギーを静電エネルギーとして、コンデンサーに回収するので、原理的にはエネルギーの損失も発生も存在しない。コンデンサーの静電エネルギーと並進運動のエネルギーとの間でのエネルギーの変換と伝達だけである。発信するときはコンデンサーから並進運動へ、停車するときは並進運動からコンデンサーへ、モーターによるエネルギーの変換と抗力によるエネルギーの伝達が行われている。

 車の加速時と減速時では駆動輪の回転の向きも車の速度の向きも同じだが、道路から受ける水平抗力の向きが逆になる。ここで水平抗力は道路から受ける静止摩擦力だから、その作用点は文字通り静止して動かない。ニュートンの運動法則は作用点が動くか否かで力を区別していない。作用点が動かない力が仕事をしても、力の方向に運動が存在すれば、不都合なことは生じない。車が道路から受ける水平抗力について、具体的に考えてみよう。

図1 加速に働く水平応力

 加速時では、図1のように、水平抗力Fは、駆動輪の右回りの回転に対して、逆の左回りのトルクとして働き負の仕事をするが、同時に重心運動に対しては運動方向と同じ向きに働き、正の仕事をする。つまり、抗力Fは駆動輪の回転運動のエネルギーを用いて重心運動を仕事をすることによって駆動輪の回転運動のエネルギーを重心運動に伝えている。駆動輪の回転運動に仕事をしているのはエンジンであるが、抗力のする仕事を否定しては、並進運動にエネルギーが伝わらない。水平抗力は車が道路から受ける静止摩擦力であり、エネルギーを生み出すことはできないが、エネルギーの伝達には不可欠な力である。

図2 減速時に働く水平抗力

 一方、車がエンジンブレーキで停止する場合には、水平抗力は図2のように、進行方向と逆向きに働くので、重心運動に対しては負の仕事をしているが、同時に駆動輪に対しては、その回転と同じ向きのトルクとして働き、その回転に正の仕事をする。水平抗力は、重心運動のエネルギーを用いて、駆動輪の回転運動に、ひいてはエンジン内のピストンの往復運動に仕事をする。つまり、エンジンへのガソリンの供給を停止すると、エンジンは仕事をする側でなく、仕事をされる側になるが、エンジンはそのエネルギーをエンジン内に保存できず、ピストンの運動エネルギーはエンジン内での摩擦により熱になって失われる。以上がガソリン車でのエンジンブレーキの原理である。

 車がEV車の場合には、発進時にはコンデンサーの静電エネルギーがモーターによって駆動輪の回転のエネルギーになり、駆動輪に働く水平抗力のする正と負の仕事によって重心運動に変換される、EV車が停車するときも並進運動のエネルギーが、水平抗力によって、駆動輪の回転運動に変換され、そのエネルギーで、発電機に変わったモーターを回転させ発電して静電エネルギーとして、コンデンサーに保存される。

 EV車では、モーターによって、車の並進運動の力学的エネルギーとコンデンサーの静電エネルギーの間でエネルギーを変換をさせている(参考1)が、その際にも、並進と回転の二つの力学的エネルギーどうしの間でニュートン力学の法則に基づきエネルギーを変換(参考2)させている。

 エネルギーの変換や伝達に重要な役割を担っている抗力のする仕事を否定するなら、エンジン車でもEV車でも、車が走れる理由をどう説明すればよいだろうか。これは自動車学校に行ったことのない人間の愚問だろうか。

参考1: モーターと発電機

参考2: 振り子の張力が仕事をしない本当の理由

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