バラ撒いて拾い数えて円周率

 床に爪楊枝をばら撒いて円周率π(パイ)の値を求める!? 一体、そんなことが可能だろうか。多数の平行線が等間隔Dで並んで描かれた水平面の上に、長さがd(d<D)の爪楊枝をばら撒くと、爪楊枝が平行線と交差する確率Wは、W=2d/Dπと表される。大量の爪楊枝をばら撒いて、Wを実験的に求めれば、円周率πが求まることになる。

 なぜ、交差する確率Wに円周率πが現れるのか、不思議に思えるが、もし、爪楊枝が横線に垂直のほうにしか向くことができなければ、交差する確率はW=d/Dとなり、πは現れない。しかし、爪楊枝は垂直の向きから傾くことができる。θだけ傾けば、爪楊枝の実質的長さがdcosθになるのと同じだから、横線と交差する確率はdcosθ/Dとなる。ここで、θは―π/2からπ/2まで変化することができるので、θのその範囲でdcosθ/Dを平均すれば、上記のWが求められる。 

 さて、我が家で行った実験の条件は、2d/D=1.6であった。写真では10本の爪楊枝のうち、5本が横線と交差しているので、W=1/2、これからπを求めると、π=3.2となり、3.14に近い値が得られたかのように思えるが、交差している爪楊枝の数が1本異なると、πの値はがらりと変わるので、10本程度の実験での結果は意味ない。爪楊枝の数を増せば真値に収束しながら近づくが、円周率を有効桁数3桁の精度で求めるには、数万本の爪楊枝を撒く必要があろう。撒くのは簡単だが、そのあと一本々確認して数えるのは大変である。

 コロナ禍で在宅学習が強いられる最近、これは、YouTubeでも紹介されている「ビュフォンの針」と呼ばれる、円周率を求める面白い方法だが、コンピュータ―を使えば、πの値を50兆桁まで計算できる時代に、実際にビュフォンの針で円周率の値を求めたという話は聞かない。 

 大々的にマスコミに宣伝し、スポンサーを募り、窓から見える広場に平行線を引き、上空から、針でもなく爪楊枝でもなく、長さを切り揃えた百万本のバラの花を撒き、人海戦術でπの値を求めたら、ギネスブックに認定されるだろうか。気づかぬままに年老い、何かに胸ときめかすこともなくなった老人の、アインシュタインの誕生日であり、πの日でもあるホワイトデーに見たい夢である。

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