自然対数の底e

 en=(1+1/n)nとすると、e1=2,e2=2.25,e3=2.3681・・・となる。nを∞としたときのenの極限値を自然対数の底とよび、記号eで表す。
e=2.71828182845904・・・となり、無理数となる。
 それでは、なぜ、eなる数が必要とされるのだろうか。そして、eはどのようなとき、自然界に顔を出すのだろうか。
複利計算
 元金A円を、年利率aで自動継続の定期貯金に預けたとき、1年ごとに、利息が元金に繰り入れられると、1年後の預金高はA(1+a)、2年後はA(1+a)2、x年後では、A(1+a)xとなる。
 半年複利という定期貯金もある。これは半年ごとに利息が元金に繰り入れられていくのだが、半年間の利率はa/2であるから、半年後の預金高は、A(1+a/2)、1年後はA(1+a/2)2となり、x年後では、A(1+a/2)2xとなる。
 一般に1年をn等分し、1/n年ごとに利息を元金に繰り込んでいけば、1/n年間の利率はa/nであり、1年間にn回の繰りこみがあるから、1年後の元利合計はA(1+a/n)nである。
 x年後の元利合計をynとすれば、yn=A(1+a/n)nxとなる。さらにこれは
        yn=A((1+1/(n/a))n/a)ax                 (1)
となる。(1)式において、分割nを∞とし、yをyとすれば、最初のeの定義から、
           y=Aeax            (2)
となる。
自然界でのe
 (2)式で表される指数関数はいろいろなところに登場する。例えば、食糧も豊富にあり、天敵もいないという恵まれた環境のもとでは、生物種の個体数は(2)式に従って増殖していく。このときのaはその生物種の単位時間当たりの増殖率である。
 放射性物質の量も(2)式に従って変化する。但し、その場合、aは負の定数となり、-aが単位時間当たりの崩壊率となる。
 貯金の複利計算から(2)式を導いたが、その過程を振り返ってみよう。年利率がaで増えるということは、ある時期x年にy円であった預金が、それから微小期間1/n年経過したあとの増え高が、(a/n)y円ということであった。
 経過した微小期間1/nをdx、その間の預金の増え高をdyとすると、
      dy=(a/n)y=a(1/n)y=a dx y これから、微分方程式
        dy/dx=ay           (3)
が導出される。
 (3)は変数分離形の一番簡単な微分方程式であり、その解が(2)式の指数関数であるが、自然界を数式で記述するとき、もっとも頻繁に登場する微分方程式である。
 さらに、a=1とすると、(3)式は、指数関数exは変数xで何回微分しても変わらない関数であることを示している。
オイラーの公式
 ある関数f(x)が次のようにxのベキ級数に展開できたとしよう。つまり、
     f(x)=a0+a1x+a2x2+a3x3+・・・+anxn+・・・     (4)
とする。
(4)式の両辺をn回微分してx=0と置くと、an=f(n)(0)/n! が得られる。     
 一般に、x=0近傍で正則な関数f(x)は次のようにxのベキに級数展開できる。
   f(x)=f(0)+f'(0)x+f”(0)/2・x2+f”'(0)/3!・x3+・・・+f(n)(0)/n!・xn+・・・
f(x)=exの場合、f(0)=f'(0)=f”(0)=f”'(0)=・・・=1であるから、
   
     ex=1+x+x2/2!+x3/3!+・・・+xn/n!+・・・    (5)
と展開できる。
次に、f(x)=sinxの場合、f(0)=0,f'(0)=1,f”(0)=0,f”'(0)=-1,f””(0)=0,・・・と微分して0とおくと、0,1,0、-1を繰り返すから、
    sinx=x-x3/3!+x5/5!-x7/7!+-・・・          (6)
(6)の両辺をxで微分すると、
  
    cosx=1-x2/2!+x4/4!-x6/6!+-・・・            (7)
xが虚数の場合までに拡張して、(5) 式 にx=iΘと代入して右辺を(6)および(7)と比較すれば、
      e=cosΘ+isinΘ                     (8)                      
(8)はオイラーの公式とよばれている極めて重要な式である。
博士の愛した数式
 オイラーの公式(8)にθ=πを代入すると、cosπ=-1、sinπ=0であるから、
    e+1=0     (9)
となる。(9)式が、映画にもなった小説に出てくる「博士の愛した数式」である。この式には、一見、他と相いれない互いに仲が悪そうな、自然対数の底e 、円周率π、そして虚数単位iという三つの「個性の強い数」に加え、「ごく平凡な数」でありながら、これがなければ数学自体が一歩も踏み出せない、自然数のなかの最初の数である1の4者が登場している。
 オイラーの公式(8)は、物理や工学にとって、極めて重要な式だが、ただ、それだけではない。今、諍いの多い人間社会や国際社会に目を転じたとき、異質な数を一つの式の中に仲良く同居させたレオンハルト・オイラーの偉大さが思い知らされる。

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