80日間世界一周

 小学校の算数で習う時計算を取り入れた小説に、フランスのジュール・ヴェルヌが100年以上前に書いた冒険小説がある。独身で金持ちの英国紳士が、世界一周の旅行計画を立てた。彼の綿密な計画表によれば、当時の蒸気船と蒸気機関車を乗り継げば、ぴったり80日で地球を一周できるというのである。

 しかし、飛行機も車もない時代のこと、80日では絶対に無理だと言う友人達に対して、それならばと、彼らと大胆な賭けをした。もし、80日以内で世界一周から帰ってくることができれば、主人公は賭けに勝ち大金を手にするが、その期限を過ぎれば悲惨、全財産を失うことになる。

 どこか間の抜けた執事を連れて、主人公は、早速その日、日没後の午後8時45分に、ロンドンから世界一周の旅に出るのだが、彼らを待ちうけていたのは息もつかせぬ命がけの大冒険。

 それについては、小説や、それをもとに後年作られた映画を見ていただくことにして、途中、予定から外れ寄り道して遅れた時間を奇想天外な手段で挽回しながら、主人公と執事はなんとか約束の時間に間に合うように英国の港に帰ってくる。主人公を強盗と思いこみ、逮捕の機会を覗いながら何食わぬ顔して二人に近づいてきた刑事と、旅の途中で助けたどこかの国の美しいお姫様とを同行して。

 港に上陸するや主人公は、その刑事に逮捕され、警察で取り調べを受けるが、全く身に覚えのないこと、当然全面否認。強情な奴だと、鉄格子の中にぶち込まれるが、誤認逮捕と分かって、一晩で釈放。本当の強盗は既に数日前に逮捕されていたことが判明したのである。

 さすがの英国紳士もこれには怒り心頭、すまんすまんと謝る刑事と署長に「スマンで済めば、サツなどいらんわい、さっさと警察やめちまえ!」と言ったかどうか定かでないが、とにかく時間がない。「ウォッチ!今何時?」「一大事!」警察署を後に駅へと急ぐ主人公と執事とお姫様だが、ロンドン行きの列車に乗り遅れて万事休す!

 賭けで約束した時間はもう間近に迫り、今度ばかりは挽回不可能、警察での一日の遅れを取り戻す術はない。主人公は賭けに負け、一文無しになるのは明らか。

 「私はもうすぐ破産するので、これ以上あなたの面倒をみることができない。それなのに、あなたをこんな遠くまで連れてきてしまって申し訳ない。」

 詫びる主人公に、お姫様は「いえ、あなたに助けていただいていなければ、私は今頃、どんなことになっていたことか。あなたは心優しく親切で、しかも勇敢な真の英国紳士です。あなたが賭けに負けるのも私を助けて予定が狂ったためでもあります。あなたさえ良ければ私をあなたの妻にして下さい。たとえ貧しくても二人で助け合えば、あなたとなら楽しく笑って生きていくことができます。」

 そんなやり取りが二人の間でかわされたのだろうか、早速、二人は役所に婚姻届を出すが、今日の日付が一日だけ違っているという理由で受理されない。しかし、これで、約束の日がまだ過ぎていないことに気づく。かくして主人公は賭けの相手の友人たちに、約束の日のぴったり約束の時刻に約束の場所で再会することができた。

 主人公は一旦は負けを覚悟した賭けに勝ったのである。しかし、今回の旅行で素晴らしい女性に巡り逢い、人生の伴侶を得た彼は、これ以上望むものは何もないと賭け金を受け取る権利を放棄する。これには友人たちも大喜び、二人は大勢の人々に祝福されながら結婚する。メデタシメデタシ。

 記憶があやふやだが、だいたいそんなストリーだったように覚えている。主人公が日付けを一日だけ間違えたのは、妖怪ウォッチの仕業だったのだろうか。恋と冒険の物語には、誰もが小学校で習った時計算を応用したトリックが隠されている。

 主人公が世界一周に出発して、80日後の、約束の時刻である午後8時45分までに、ロンドンにいる友人達は80回日没を見る。しかし、太陽の運行(東→西)とは逆回りの東回りの航路(西→東)で世界を一周した主人公は、同じ80日間に、1回多くの81回の日没を見ることができる。もし、彼らが太陽の運行と同じ向き、つまり、西回り航路で地球を一周していたなら、賭けに勝つには、79回目の日没を見る日の午後8時45分までに帰って来なければならないことになる。

 では、実際に世界一周した気分で、映画「80日間世界一周」のテーマ曲「Around the World」に乗せて、世界の壮大な遺跡と美しい風景を  → ネットで見つけたYoutube:80日間世界一周

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